60歳を過ぎて、”ライフワークは何ですか?”と聞かれたとき、正直、即答できませんでした。
サラリーマン生活が長いと、会社のリズムに組み込まれてそこから抜け出すことがなかなかできないんですね。
会社の軸になって仕事を回しているように見えても、所詮、サラリーマンはサラリーマン。
たとえ役員になったとしても、いつかは会社から離れるときがきます。そうなれば、企業にとっては”ただの人”。忘れられるのも、時間の問題です。
ある金融機関での実際の話
ある金融機関の営業部に、男性の老人が一人で突然やってきました。アポなしです。
その男性は、エレベーターホールを降り、しばらくオフィス内を見回した後、一番近い部署の空いている席の椅子に腰を下ろしました。
その時、その部署にいたのは女性社員だけでした。男性の営業社員は、みな朝一番で外訪に出たあとです。女性社員も、はじめてのお客様にとまどいもあったようですが、さすが営業部門です。
一人の女性社員が、その老人にお茶をお出しました。今では、コンプライアンスやセキュリティ面から、突然お客様がオフィス内に表れるなんてことはありませんが、当時はまだそれほど厳しくありませんでした。
時々ぶらりと立ち寄られるお客様もいらっしゃいましたから、担当者のところへ見えられたのかな?程度の認識だったようです。そこで女性社員が、担当者の名前をお聞きしようとしたところ、その老人が突然怒りだしたそうです。
実は、2代前の社長さんだったのです。
会社も社員も暇じゃない
元社長さんにしてみれば、たまたま本社の近くに来たから懐かしくて寄ってみたのでしょう。もちろん全員が、自分のことを知っているつもりで・・・。
あらかじめ連絡があれば、応接室へお通しして、当時の役員へ連絡するなどの対応をしたはずです。しかし、異動の激しい金融機関で、入社数年しか経っていない女子社員が、2代前の社長の顔を覚えているなんて無理な話です。
金融機関は、はたから見るほど暇じゃありません。どんな会社も同じです。会社は365日24時間そこにあって機能し続けているし、役職員もゴーイングコンサーンを前提に動いています。
一言でいえば、”前進あるのみ”と言ったところでしょうか。
退職すれば過去の人
冷たい言い方かもしれませんが、会社を離れた人は”功労者””貢献者”であっても、現役として会社をささえているわけではありません。
政治家が選挙戦で負ければ、バッジを外してただの人。それと同じです。
OB会など、現役を離れた方たちをねぎらう場もありますが、ひとたび会社を去れば、特段の用が無い限り、あまり顔を出さないほうが・・・、と私は感じます。
定年は自分のライフワークのスタートライン
社会人になって30年以上、ときには40年以上も同じ会社で仕事をしていると、会社イコール自分の人生のように錯覚しがちです。
しかし、会社は未来永劫存続するのが目的ですし、社員の役割はその一時期をささえるだけ。
個人を中心に考えたら、人生の一時期だけ会社に所属していたという事実しかありません。創業一族やオーナー企業でもなければ、たまたまその会社を選んだだけのはずです。
そう考えると定年は、新たな人生のスタートラインであり、自身が思い描いていたライフワークの集大成の起点ともいえそうです。
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