タニタ「個人事業主」制度 はたして得か損か?

アウトソーシング

「タニタ」は、体脂肪計などの健康医療機器では、だれもがお世話になっている老舗メーカーです。

タニタが、2017年に導入した「個人事業主」制度は、社員の希望で正社員から個人事業主へ移行できるというもの。

なお、タニタ・谷田千里社長によれば、2021年春からの新卒者は、個人事業主になることを前提として採用するようです。

タニタの「個人事業主」制度で完全に自律できる?

タニタが、「正社員」から「個人事業主」へ転換できる制度をスタートしてから、そろそろ3年が経とうとしています。

かなり以前から、正社員として働くより個人事業主として働いたほうがメリットがあるとされてきましたが、手取り収入を考えてのこと。

会社のルールや勤務時間に縛られず、青色申告による税務上のメリットもあり、いいことずくめのようですが、通常の場合、交通費が自腹、税務申告の手間など、サラリーマン時代とは違う負担が増えます。

さらに、厚生年金から国民年金へ切り換えになることで、将来の資金計画も変わりますが、タニタの場合は?

制度の発案者は、タニタ・谷田千里社長で、”働きたい人が思う存分働けて、適切な報酬を受け取れる制度を作りたい”、と考えたのがキッカケだったそうです。

現在、本社社員230人のうち約1割、26人(2019.8.1現在)が個人事業主ですが、”経営者になる”あるいは”自分の可能性を試したい”という高いモチベーションの社員がこの制度を利用しているようです。

タニタの「個人事業主」制度のポイント

日経ビジネスの記事によれば、要約すると以下のような内容です。

  • 雇用関係を終了し「業務委託契約」を締結する。
  • 「基本業務」は、独立前の業務を委託する。
  • 「基本報酬」は、社員時代の給与・賞与がベース
  • 「基本報酬」に社員時代の社会保険料・通勤交通費・福利厚生費を含む。
  • 基本業務以外を「追加業務」として発注することがある。
  • 出退勤の時間は自由に決められる。
  • タニタ以外の業務の受注もできる。
  • 契約期間は3年で契約は毎年締結し直す。

正社員だったときと同じ業務を委託されるわけですから、実務的には何も変わらないことになりますが、役職者の場合どうなるのか、その契約内容と働き方が気になります。

基本的な労働スタイルは変わらない?

基本的な働き方は社員当時と変わってはいないようです。

出社や退社の時間は自由ですが、ある個人事業主は、週5日出社、社員当時と同じ内容の仕事をしているとのことなので、労働実態は社員当時とほぼ変わりません。

基本業務におさまらない部分は、追加報酬として受け取ることができますが、これも実質的には残業と同じです。

他社からの受注が無ければリスク大

個人事業主であれば、他社からの受注もできますが、社員当時と同じ業務をこなしたうえで、余力の範囲で受注することになりますから、かなりハード。

結局、タニタの業務を最優先しなければならないので、受注業務の選択肢は限定的です。

退社後あるいは休日に、副業的な感覚で他社の仕事を受けることになりますから、事業主としては受注バランスのうえで、将来的に大きなリスクになる可能性がでてきます。

一般的には、特定の取引先への依存度が高くなれば、親会社の倒産によって共倒れになる可能性が出てきます。

当然、受注単価が引き下げられる可能性や、発注先を変更されるリスクも。よほどのノウハウと技術力が無い限り、契約更新では不利に。

契約期間は3年ですが、更新の保証はありません。タニタからの受注比率を引き下げたいところですが、他社からの受注が副業程度であるとすれば、個人事業主としてのリスクは大きくなります。

会社としては人員調整弁としての機能

タニタに限らず、個人事業主への外注は、業績不振やIT・AI化による人余りの状況になれば、財務・人事の調整弁になります。

タニタでは、”人員削減の制度ではない”としていますが、谷田社長は、日経ビジネスのインタビューに対して、次のように答えています。

経営危機になれば賞与を払えなかったり、給与を下げたりしなければいけなくなるかもしれません。・・・タニタの仕事をしながら、ほかの会社の仕事もできる仕組みであれば、社員の手取りは減らず、タニタの再建に尽力してくれることになります。
出典:「日経ビジネス」2019.7.18から一部抜粋

このコメントからは、「個人事業主」制度に対する人員体制の調整弁としての役割が見えてきます。

もともと、残業削減を推し進めてきたうえでの制度。

”最低賃金引上げ”や”有給休暇の取得義務化”など、社員をかかえることが企業にとって重い負担となる時代にあっては、”人員削減の準備”ととらえられても仕方ないかもしれません。

個人事業主としての働き方

タニタの場合、個人事業主になってもこれまでと同じ業務を行うわけですから、実質的な働き方は変わりません。

しかし、契約更新のときに、会社と対等な立場で条件交渉するためには、他社の業務を積極的に受注して実力をつけておく必要があります。

契約期間の3年は、その力を蓄える期間と考えるべきでしょう。土日関係なく働くこともありますが、すべて自分の収入につながると思えば、結構高いモチベーションで働くことができます。

”会社が仕事をくれる”との甘い考え方で個人事業主になったとしたら、失敗するのは間違いありません。

中小企業もアウトソーシングで人員調整

大企業の個人事業主化は、今後さらに加速していくでしょう。

タニタのように、新卒者についても、個人事業主として「業務委託契約」を結ぶようになれば、「コア業務」「ノンコア業務」に関係なくアウトソーシングすることになるわけです。

ということは、中小企業でも業務内容にかかわらず、アウトソーシングすることができるということ。

実際、社長以外はすべてアウトソ―シングすることで、業績を2倍にした会社もあります。

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大企業では、「楽天」「三井不動産」「サンケイリビング新聞社」「NTTdata」など、アウトソーシングを活用している企業は、タニタだけではありません。

理由は、事業戦略にあわせた柔軟な人事戦略をたてることができるからです。

「楽天」「三井不動産」がアウトソーシングする会社

ノウハウを持った「個人事業主」を活用する

個人事業主の多くは、メイン先からの受注を柱にしながら、専門分野での知識を生かし、シェアリングサービスのプラットフォームに登録するなどして得意先を増やしています。

タニタの「個人事業主」制度で、どの程度の時間的余裕を持てるかわかりませんが、なかにはアウトソーシングの会社に登録している方もいるはずです。

実際、アウトソーシングの会社には、電通やリクルートキャリア、アクセンチュアなどの大手企業の専門部署で働いていた優秀な人材が、スタッフとして登録しているところもあります。

人材確保に苦慮している中小企業としては、これらの人材を有効活用しない手はありません。

ただし、パート社員と同じ使い方をしたら、コスト的には合わなくなります。社内業務を、外注可能な業務とそれ以外に分類し、採算性を考慮したうえでアウトソーシングするのがポイントです。

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