認知症の初期症状に、MCI(軽度認知障害)という段階があります。
MCIは、ケア次第で40%が回復すると言われています。つまり、認知症になる前の段階で、早目にケアすれば、認知症にならずにすむ確率がとても高いということです。
逆に、そのままほおっておけば認知症へ進行し、決定的な治療法はほぼ無くなります。
MCIでのケアが難しいのは、自覚がなく周囲も気づきにくいため放置されてしまうからです。
MCIは、日常生活に支障はないとはいうものの、認知症へのグレーゾーンであり、似たような症状が出ます。認知症の症状を知ることで、MCIに気づいて早目の予防がしやすくなるといえます。
認知症の初期症状を知っていればMCIにも気づきやすい
脳の機能は、一気に衰えるわけではありません。他の臓器と同じで、少しづつ機能が衰えていくのは肝臓や腎臓と似ています。
腎臓の機能が弱まれば透析が必要になりますが、透析をしても腎臓そのものが回復することはありません。
「脳」の機能が弱まると、MCIの段階を経て認知症になりますから、日常生活に支障がないとしても、軽い認知症の症状は出ているはず。
認知症の実例を知ることで、MCIを見逃さないヒントが見つかると考えています。
独居の認知症患者のケアから知る実情
関西のリハビリテーションセンターでの実例をもとに、一人住まいの認知症患者(仮名:花田君子さん)のケアについて紹介します。
<家族構成と生活環境>
花田君子さん(73歳)は未婚で、生まれ育った家で一人暮らしをしています。隣には親戚の家があり、多少の行き来はありますが、近所づきあいはほとんどありません。
<認知症の種別>
〇脳血管性認知症
<認知症の兆候と思われる症状>
- 「モノが無くなった」「モノが増えている」など、1日に何回も親戚の家を訪れる
- モノを置き忘れる
- 落ち着きが無くなる
- 薬の飲み忘れが多くなった
- 食事はできあいの総菜やラーメン
- 訪販でふとんを何枚も買わされた
<実際のケア>
- デイサービス:週3回
- 訪問介護:1日2回(朝・夕)
<ケアと生活支援の内容>
- 一人で過ごす時間を減らすようにする
- 落ち着きが無くなる夕方に訪問する
- 調理や洗濯、掃除を一緒にする
- 隣の親戚から様子を情報提供してもらう
- 大きな文字カレンダーを机の上に置く
<ケアする人の接し方>
- 介護スタッフが生活情報や身体状況を把握する
- 話かけるときはゆっくり・やさしく・おだやかに
- なじみの店でおしゃべりしてもらう
※安心できる場をつくる
<治療の検討>
- 認知症専門医に受診する
- 投薬については検討中
<ケアによる症状の改善>
- 日常の家事を声掛けすればできるようになった
- 隣家へ行く回数が減り苦情が少なくなった
- 認知症の行動にあまり変化が見られない
認知症になってからの改善は難しい
花田君子さんの場合、認知症の治療薬を検討中ということで、投与は始まっていません。
デイサービスなど外部者とのふれあいのなかで、少しづつ認知機能が和らいでいる様子もありますが、症状の進行を抑える程度と考えたほうがいいかもしれません。
アルツハイマー型認知症あるいは脳血管性認知症になる方の場合、MCI(軽度認知障害)の段階では、記憶障害がでてきます。
花田君子さんの場合も、薬の飲み忘れなどがあったはずですが、忘れる回数がそれほど多くなければ気づきません。
一人暮らしだと、気づいてもらうことも遅れます。隣に住んでいる親戚が変化に気づいて、介護スタッフのケアが始まらなければさらに悪化していたケースです。
この状態になると、回復はなかなか難しくなり、多少日常生活を取り戻すのがやっとという感じです。
MCIの段階なら40%が回復する!
MCIの段階なら、40%の方が健常者と同じように回復すると言われています。
ということは、MCIであることを本人が自覚することが必要です。たぶん、”最近忘れやすくなった” ”買物へ行って何を買いに来たのか忘れた” などの症状があったはずです。
そこでMCIとは気づかず、”忙し過ぎたから” などの理由付けをして自分を納得させてしまうために回復するチャンスを逃がしてしまうんですね。
70%を占めるアルツハイマー型認知症は20年前から始まる!
認知症の70%を占めると言われるアルツハイマー型認知症ですが、高齢になってから突然発症するわけではありません。
MCIの状態よりもずっと前に、なんと20年も前から、脳内では認知症への準備が始まっています。
アルツハイマー型認知症の脳には、アミロイドβが多く蓄積されていることが知られています。実はこのアミロイドβが蓄積され始めて20経って、ようやく認知症を発症するそうです。
ということは、40歳~のケアが大切ということ。逆に考えると、40歳からアミロイドβを蓄積するような体質あるいは生活を続けていた人は、認知症のリスクが高くなるということです。
生活習慣病と認知症との関係
2型糖尿病や高血圧などの生活習慣病が、認知症と大きくかかわっていることがわかってきました。そのリスクは、2~4倍とも言われます。
当時の健康診断で生活習慣病の指摘を受けたことがある人は、MCIのことを知っていれば、認知症にならずにすむ可能性があるともいえます。
アルツハイマー予防のための生活習慣
つぎのような生活習慣が、脳にアミロイドβが蓄積しないと言われますので、参考にしてください。
- ウォーキングなどの有酸素運動
・1日30分以上を週3回 - 運動と同時に脳をつかう
・歩きながら計算をする - 野菜や魚、大豆食品を食べる
・サバ・イワシなどの青魚が特に良いようです - 人と話す機会を増やす
- お酒を飲み過ぎない
40歳過ぎから生活習慣病の人は老後のおひとり様に注意!
40歳過ぎてから、糖尿病や高血圧、肥満やメタボリックなど、生活習慣病の心配があった人は、認知症のリスクが高くなることは確かなようです。
早目に気づいてケアをすれば、健常者と同じように生活することができますが、気づきが遅ければ取返しがつかないことに・・・。
40代から毎日のようにお酒を飲んでいた方は、60歳を過ぎてから、日常の行動パターンをチェックすることで、認知症にならないですむかもしれません。
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