エクソソーム(exosome)は、細胞から分泌される細胞外小胞の一種で、幹細胞を培養するときにも、培養液中に放出されます。
大きさは、ウィキペディアでは直径30~150nm(1nm:1mmの百万分の1)だそうですから、新型コロナウィルス(80~220nm)より少し小さめ。なかには、直径10nm~とする説もありますから、とにかく小さいことと、さまざまな大きさがあるのが特徴。
発見された当時は、不要物扱いされていたエクソソームですが、このなかに含まれる mRNAやmiRNAなどが、他の細胞へ遺伝子情報を伝える重要な役割を果たしていることがわかり、研究が急速に進むようになりました。
mRNAワクチンのメカニズム
新型コロナワクチンにも、mRNA のはたらきが活かされています。国内で最初に使われているファイザー社のワクチンは、このmRNA ワクチンのタイプですが、モデルナ社も、同じくmRNAワクチン。
mRNA の m とは、メッセンジャーのことで、遺伝情報を伝える(コピーする)働きがあります。つまり、mRNA は、細胞の設計図と言えます。
mRNAワクチンの目的は、体内に新型コロナウィルスの抗体を作ることですが、抗体が作られるまでのメカニズムはつぎのようになっています。※参考;ニューヨーク州スノホミッシュ保健地区(Snohomish Health District)COVID-19 mRNAワクチンが働くしくみ
mRNAワクチンでは、新型コロナウイルスの突起部分(スパイクタンパク質)だけの設計図を持った mRNA がつくられます。この mRNA は壊れやすいため、細胞の周囲に似た構造の脂質で保護します。
脂質で保護された mRNA が、注射によって筋肉内に送り込まれると、細胞に取り込まれた mRNA の設計図にもとづいて、アミノ酸を合成し、新型コロナウィルスのトゲトゲした突起部分(スパイクタンパク質)がつくられます。
体の免疫系は、このスパイクタンパク質を認識することで、抗体を作ります。抗体は、この反応を記憶することで、その後の新型コロナウィルスの感染に備えます。
これが、新型コロナワクチンの簡単なメカニズム。
発熱など、新型コロナワクチン接種後の副反応が話題として取り上げられますが、発熱などの副反応は抗体が作られている証と言えるでしょう。もし、発熱などの副反応が無ければ、抗体がまだ作られていないということになるのかも?
mRNA は、体内ですぐに分解されますし、ヒトの遺伝子に組み込まれることはないので、安全とのこと。もちろん、スパイクタンパク質だけの設計図なので、つくられたものに毒性はありません。
エクソソームの話から、だいぶ逸れてしまいましたが、mRNA が細胞の働きに重要な役割を果たしていることを知ると、エクソソームが医療分野や美容分野で注目されている理由がわかります。
エクソソーム(exosome)に含まれる成分
ヒト幹細胞を培養するときに、培養液中にエクソソーム(exosome)が放出されますが、このエクソソームのなかには、mRNA や miRNA のほかにも、細胞にはたらくさまざまな物質が含まれています。
化粧品の素材を開発しているレミーバイオ社のHPによれば、エクソソームのなかに含まれているおもな物質として、つぎのようなものが挙げられています。
- 酵素
・ペルオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、キナーゼ、エノラーゼ、GAPDH - シグナルトランザクション
・プロテインキナーゼ、β-カテニン、14-3-3タンパク質、Gタンパク質 - 生合成因子
・ALIX、TSG101、シンテニン、ユビキチン、VPS32、VPS4 - シャペロン
・HSP70、HSP90 - 核酸
・miRNAおよび非コードRNA、mRNA、DNA(およびヒストン)
ここで挙げられているのは、じつはほんの一部で、1つのエクソソームには、数万種類のタンパク質、mRNA、miRNA は数千種類あるとも言われ、由来する細胞やその状態によっても違ってくるようです。
エクソソームは、細胞間情報伝達媒体として注目され、生理的または病態生理的機能の解明がすすんでいますが、これらの機能を用いた診断や治療、バイオマーカーの開発が急速に展開されているだけでなく、美容分野でも使われはじめています。
美容分野におけるエクソソームの働き
美容や化粧品の分野では、ヒト幹細胞培養液を使ったコスメや施術が注目を集めています。
これまでヒト幹細胞培養液の有効成分として、グロースファクターと呼ばれるEGFやFGFなどの成長因子や、サイトカインやペプチドなどが挙げられてきましたが、近年、エクソソームが重要な働きをしているらしいことが知られてきました。
ヒト幹細胞培養液には、幹細胞の増殖に必要な成分だけでなく、培養する過程で放出されるエクソソームのなかに、細胞を若返らせたり、修復にはたらく成分があるのではないかということです。
エクソソームの保護膜としての役割
mRNA や miRNA などのRNAは、そのまま細胞外に放出されると、すぐに分解されてしまいますが、エクソソームの細胞膜によって守られているので、他の細胞内にしっかり届けられます。
新型コロナワクチンの mRNA が、脂質で保護されているのは、ハダカの mRNA は、細胞内に入る前に分解されてしまうから。
つまり、エクソソームだからこそ、目的の細胞に取り込まれて、 mRNA などの情報伝達物質がその役割を果たすことができるわけです。
エクソソームを配合した美容液
化粧品の分野では、ヒト幹細胞培養液でも、日本ではまだ一般的ではありません。高価格なのも理由の一つですが、大手化粧品メーカーでも、副作用の心配その扱いは慎重です。
そのなかで、エクソソームを抽出・配合したコスメが、アンチエイジングに取り入れられたことは、ヒト幹細胞培養液を飛び越えてその先へ、と言った印象でしょうか。
国内で初めて、ヒト幹細胞エクソソームを配合したLejeu(ルジュ)によれば、エクソソームはヒト幹細胞培養液にわずか0.5%しか含まれていないとのこと。
ヒト幹細胞エクソソームが、とても貴重な成分であることがわかります。
エクソソームのヒト線維芽細胞への働き
化粧品の素材を開発しているレミーバイオ社によれば、エクソソームが線維芽細胞にはたらいて、コラーゲンの生合成を増加させ、シワ改善、抗老化などの臨床的効果が期待できると説明しています。
また、光老化と生物学的老化を改善し、線維芽細胞の若返り効果が、実験によって確認されたようです。
「エクソソーム」無血清培地の安全性
化粧品の原料として配合される「ヒト幹細胞エクソソーム」を精取り出すためには、幹細胞を培養しなければなりませんが、その培地として、「無血清培地」が使われます。
再生医療の分野で、幹細胞を培養するには、通常、血清が培地として使われ、患者自身の血清を使うこともあります。
しかし血清には、1万種類以上もの成分が含まれ、未知の物資、ウィルスや細菌が含まれている可能性もあり、その安全性が問題になります。
しかし、化粧品の原料に使われるヒト幹細胞培養液の培地は「無血清培地」なので、血清培地固有のリスクはありません。
化粧品原料としてのヒト幹細胞培養液を製造する場合、血清培地を使うことはできませんし、通常の増殖で使われる抗生物質やホルモン剤も使えません。
その意味では、ヒト幹細胞培養液コスメやエクソソームを配合したコスメは、安全と言っていいでしょう。
まとめ
エクソソームの研究は、医療分野・美容分野で今後急速に進展することが予想されます。
がん治療でも、エクソソームの活用により、抗ガン剤の効率的な投与が可能になり、腫瘍部位を切除することなく治療することができるようになると言われます。
新型コロナワクチンで、注目されるようになった mRNA ですが、今後、美容分野でもエクソソームを通してこの名前を聞くことになりそうです。
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