味の素といえば、グループ全体の年商が1兆円を超え、全従業員数も3万人を超える大企業。
働き方改革は、そう簡単ではないはずと思ったら、テレワークがかなり定着しているようです。
「どこでもオフィス」が、味の素株式会社のテレワーク勤務制度の名称。
自宅での終日勤務や部分勤務ができる他、コアタイムがないスーパーフレックスタイム制や時間単位年休との併用もできるそうですから、かなり使い勝手の良い制度といえます。
なんと全社員の84%が、「どこでもオフィス」を利用しているとのこと、社員の働き方にもかなり変化があるようです。
『味の素』は「どこでもオフィス」で”働きがい”と”生産性向上”
味の素の「どこでもオフィス」は、社員からかなり評判が良いようですが、2013-2014年に在宅勤務を導入した当時は、不評でした。
以下が、初期のルールだったようです。
- 前週申請
- 業務・場所の限定
- 月4回
社員を信用できないというより、こわごわテレワーク制度を運用している様子が伝わってきます。使いづらそうなルールです。
初期にテレワークを導入した企業は、他社でも同じような状況だったのではないでしょうか。
また、働き方改革の初期段階では、どこの企業でも単純に労働時間を減らすことを目的とした施策が多かったですね。
残業時間は減るけれども、やるべき仕事は変わらないから、長時間労働の実態は変わらないわけです。
社員からは労働環境での不平もでますが、給料が下がることも・・・。
味の素はわかりませんが、住宅ローンの返済を残業代でカバーしていた、なんて話はよく聞きます。
社員を信頼できないと「テレワーク」導入は失敗する
かつて、「人は放っておくと怠けるもの」という性悪説にもとづいて、人事の管理制度はつくられていました。
それが、時間労働制やタイムカードなどの導入につながっているわけですが、その延長線で「テレワーク」を導入しようとしたら、味の素の初期の施策のようにうまくいきません。
”残業代で住宅ローン” ”できない社員ほど残業代が多い” なんて話もよく耳にしましたから、わからないでもありません。
しかし、そんな社員を作ってしまった原因は、職能給制度・人事制度・給与体系。考えてみたら、社員のモチベーションを作るのは会社だということ。
テレワークの導入には、就労規則や人事制度そのものを大きく変える必要がありますが、そのベースには”社員への信頼”があります。
「どこでもオフィス」で変わった社員の”働きかた”
「味の素」のIR資料によれば、社員の働きかたは大きく変化したようです。
2018年度の総実労働時間は、2017年度と比べて、74時間削減して1,842時間に。目標は1,800時間ですが、確実に目標値に近づいているのは確かです。
「どこでもオフィス」について、味の素が公表した資料をもとに導入事例を作成してみたのが、こちらの図。
「どこでもオフィス」の導入で、自分で自由に使える時間が増えることがわかります。
とくに、通勤ラッシュでのストレスが無くなり、同時に自分の自由な時間として使えるのがいいですね。
このシミュレーションでは、”家事”としていますが、もちろん”育児”や”スキルアップ”、人によっては”副業”の時間として使うことも十分可能。
味の素では、サテライトオフィスを使うこともできますが、この場合でも通勤時間がかなり短縮できることになります。
「スーパーフレックス制度」との併用
味の素「どこでもオフィス」は、「スーパーフレックス制度」と併用できることから、かなり自由度が高く使いやすい制度のなっています。
一般的なフレックス制度には、コアタイムがあり、一定時間拘束されます。出勤時間や退社時間をずらしても、中間の一定時間はオフィスにいなければなりません。
味の素は、「スーパーフレックス制度」を導入しているので、コアタイムがありませんから、日中の時間帯を自分のスキルアップのために使うこともできることになります。
時短で給料は下がった?
味の素の初期段階での施策は、”時短”に焦点が絞られていました。
残業短縮が目的ですから、残業代をあてにしている社員からすれば改悪です。さらに平日、早帰りしても特にやることがない、という社員が多かったようです。
これを解決するために、賃金のペースアップを施策に取り入れています。
所定労働時間20分短縮+10,000円BU(ベースアップ)
ベースアップ+10,000円は、かなり思い切った施策のようですが、残業時間が置き換わったと考えればコスト増はかなり抑えられているはず。
社員の満足度が高い秘密は、ここにもありました。
中小企業で「テレワーク」導入は難しい?
味の素のような大企業でなければ、「テレワーク」の導入は難しいと考える中小企業も多いかと思います。
しかし、味の素も、元は一般的な中小企業と同じ就業規則だったわけです。違うのは、大企業では、人数が多いのでいろいろなモチベーションの社員がいるということ。
与えられた仕事だけをこなしたい社員もいれば、新しいことに挑戦したい社員もいます。
万一、テレワーク導入が失敗しても、人数が多ければ、多少内部で調整がきくのが大企業のメリットと言えなくもありません。
中小企業では、そのような調整は難しいですが、よく考えてみれば人事制度・給与体系が時間制労働を前提としているからにすぎません。
はじめから成功報酬型の給与体系なら、そんな心配は無用なわけですが、途中からのテレワーク導入の難しさが、ここにあります。
でも、ITやデザイン関連なら、いつでもどこにいても仕事ができますね。
大企業のノウハウを活用する方法
味の素「どこでもオフィス」の例をみても、労働環境は大企業と中小企業の格差が大きくなるばかりのようです。
しかし、そんな大企業のノウハウを中小企業が活用する方法はいくつかあり、その一つが、アウトソーシングです。
アウトソーシングできる業務は、企業の事情によって違いますが、単純な業務だけではありません。企画書や提案書、ときには秘書業務といったコア業務に近い部分を請け負うことができる事業者もあります。
このような事業者のスタッフは、元大企業の専門部署で働いていたエキスパートであったり、それぞれの業務の専門知識とノウハウを持った方が多いのが特徴です。
それによって、経営陣は事業戦略に沿ったコア業務に専念することができるようになります。
社員をかかえるリスクから解放され、必要なときに完成度の高い仕事をしてもらうことで、かなり高いパフォーマンスが得られることもあるようです。
上場企業のなかにも、オンラインのアシスタントサービスを積極的に活用して、業績を伸ばしているところがあります。
スタッフがオフィスにいない点では、「テレワーク」と同じ!?
まとめ
味の素の施策「どこでもオフィス」のように、他の制度と組合せて柔軟に運用することができるケースはまだ少ないと思います。
しかし、大企業の労働環境が、従来の時間労働制の考え方から大きく変化しているのは間違いありません。終活マインドが、中小企業へ向かわない大きな理由の一つになっているようです。
数年前までは、中小企業への新卒希望が増えた時期がありました。
”変わらない変えない” のは、経営者のモチベーションでしょうか。
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