同じ薬でも、効く人と効かない人がいます。
当たり前のように思っている方が多いと思いますが、よく考えてみると不思議です。同じ症状の人に同じ薬を投与しても、違った治療結果になることがあります。
西洋医学では、病名と症状の程度で処方される薬が決まりますから、どの患者さんも病名が決まれば同じ薬を処方されることになります。
悪い部分があれば、外科的に切除することもありますが、対症的な処置ですから、症状が一時的に治まっても、根本的には治癒していないことも。
漢方ではさらに踏み込んで、発症の原因となる体質改善まで踏み込んで治療を考えているのが西洋医学との違いです。
健康を保つためには、漢方の考え方がとても参考になります。難しい専門用語は、読み飛ばしてください。
<漢方>個人の体質を診断してから処方!西洋医学との違い
漢方では、西洋医学と違い、まず初めにその人の体の状態を調べます。
漢方の研究では、富山大学に合併された富山医科薬科大学がよく知られていました。富山医科薬科大学の附属病院に和漢診療部があり、受診する前に「健康調査表」が渡されます。
質問は、以下の16分野、200項目以上にわたり、自覚症状とその強さをチェックしていきます。
- 全般的な体力
- 便通
- 小便
- 食欲
- 睡眠
- 発汗
- 発熱・悪寒
- 口や舌の状態
- 頭痛
- 眼や顔の状態
- 耳や鼻の状態
- 胸の状態
- 腹の状態
- 皮膚
- 関節・四肢の状態
- 女性の生理
体のバランスを考えて処方される漢方の考え方ならではの調査表です。
「健康調査表」<皮膚>の例
各項目は、0~4までの5段階で症状の程度をチェックし、判定基準は以下が目安になります。
<判定基準>
- 0:いいえ
- 1:ほんのすこし
- 2:すこし
- 3:かなり
- 4:非常に
<皮膚>
- よく湿疹が出る
- ジンマシンになりやすい
- 化膿しやすい
- おできや吹き出物ができやすい
- すぐ物にかぶれる
- 皮膚がカサカサする
- シミがふえた
- 皮膚がかゆいことがある
- 冬にはあかぎれになる
- すぐアザになる
- 毛髪にツヤがない
- 毛がよく抜ける
西洋医学では、これらの症状から診察によって病名を決定し、軟膏や飲み薬が処方することになります。
しかし漢方では、他の15項目の結果と照らし合わせ、「気」「血」「水」の異常を探り、「陰陽」「虚実」などの判定をします。
そして、実際に表れている症状から総合的に判断し、得られた診断結果を「証」と呼び、それをもとに漢方を処方します。
<皮膚疾患>漢方治療における3つの処方
「証」にもとづいた漢方薬の処方のなかでも、西洋医学と同じように、病名にもとづいた治療を「病名治療」と呼んでいます。
そして、漢方の「証」の考え方にもとづく治療として「隋症治療」があり、隋症治療はさらに、①「標治」と②「本治」に分類されます。
<病名治療>
皮膚疾患では、アトピー性皮膚炎には「白虎加人参湯」、イボなら「ヨクイニン」、とい った処方が「病名治療」で、西洋医学で処方される薬と同じ考え方です。
<隋症治療>
「隋症治療」は、漢方特有の考え方で、「証」にもとづいて処方されます。
「隋症治療」には、湿疹や浮腫などの目の前の症状「局所の証」を改善する治療と、皮膚疾患の原因となっている体質「全身の証」を改善する治療があります。
局所の証を改善する治療を「標治」といい、対症療法的な処方になります。一方、全身の証を改善する治療を「本治」といい、体質改善的な漢方が処方され、それぞれの考え方は根本的に違います。
<「標治」で処方される漢方>
※参考:マルホ皮膚科セミナー「皮膚科領域における漢方治療」から抜粋
紅斑、熱感 | 黄連解毒湯、白虎加人参湯 |
丘疹、膿疱 | 十味敗毒湯、排膿散及湯 |
鱗屑、乾燥 | 四物湯、当帰飲子 |
苔癬化、色素沈着 | 桂枝茯苓丸、通導散、桃核承気湯 |
水疱、湿潤 | 越婢加朮湯、消風散 |
浮腫 | 五苓散、猪苓湯 |
<「本治」で処方される漢方>
胃腸虚弱な小児には「小建中湯」や「黄耆建中湯」、疲れやすい気虚体質には「補中益気湯」、化膿しやすい体質には「柴胡清肝湯」や「荊芥連翹湯」、気虚体質に血流の低下や冷えを伴う場合は「十全大補湯」などが用いられるようです。
「本治」は、本治は、患者さんの体質を改善して体のバランスを整えることが目的なので、体質に合わせて、さまざまな漢方が処方されることがわかります。
漢方の「気」「血」「水」とは?
漢方は、体が状態を正常にもどすことを目的としていますが、その基準となるモノサシのうち、とくに重要なのが「気」「血」「水」です。
「気」「血」「水」には、体のバランスや健康を維持する働きがあり、「気」は生命活動を維持する根源的なエネルギーになります。
「血」はエネルギーや栄養素を供給し、「水」は「血」以外の体液のことで、ともに「気」の働きをになって、全身を巡ります。
西洋医学の「神経系」「内分泌系」「免疫系」が、漢方の「気」「血」「水」とよく似ています。
「陰陽」と「虚実」について
「陰陽」とは、体が冷えているか、熱を持った状態なのかをいいます。
体が冷えている人は「陰」の体質なので、バランスを取るためには体を温める必要があります。食べ物もできるだけ温かいものを摂ることを心がけます。
「陽」の体質の方は、逆に、熱を冷ますような食材・食事を摂るようにしてバランスをとります。
「虚実」とは「虚証」と「実証」のことで、「虚証」は、「気」「血」の総量が少ない状態や、体力や抵抗力が低下している状態。
「実証」はその逆で、「気」「血」がみなぎり、体力と気力が充分保たれて状態のことです。
患者さんの「陰陽」と「虚実」によって、体質改善のために処方される漢方薬が違うことになります。
まとめ
漢方は、現代医学からすれば、理解しにくい一面があるのは確かです。
しかし、病気しがちな体質を健康に導いたり、無理のない体質改善が可能になるのは、漢方ならではの効果・効能といえるのではないでしょうか。
”漢方は生薬が原料だから安全”と思っている方もいますが、とても危険です。
漢方薬には薬効成分が含まれていますから、さまざまな副作用の可能性があります。
ドラッグストアや通販などでも購入することができますが、医師や漢方専門医などの診断を受け、ご自身の体質を確認したうえで処方してもらうことをおすすめします。
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